電気自動車(EV)のバッテリー寿命は何年くらい? 劣化を防ぐ方法や災害時に役立つ活用方法も解説
2021年1月、政府は通常国会の施政方針演説で「2035年までに新車販売で電動車100%を実現する」という方針を発表し、大きな話題となりました。それに伴ってみなさんの身の回りでも電気自動車(EV)を目にすることが多くなってきたのではないでしょうか?
電気自動車(EV)の動力源は文字通り電気です。動力源である電気を貯めるものとして、主に大容量のリチウムイオン電池が使用されています。リチウムイオン電池はスマートフォンやパソコンなど、身の回りのものにも使用されており、これらの製品でよく話題にあがるのがバッテリーの劣化です。
そこで今回は電気自動車(EV)におけるバッテリーの寿命や劣化を防ぐ方法などを解説していきます。(参照:「ライフスタイルの転換による移動の脱炭素化にむけて」)
ガソリン車から電気自動車までの変遷も合わせてご覧ください
リチウムイオン、ニッケル水素、鉛蓄。電気自動車(EV)のバッテリーは大きく3種類
現在、自動車に使用されているバッテリーには3つの種類があります。
電気自動車(EV)の駆動用バッテリー:リチウムイオン電池
ハイブリッド車(HV):ニッケル水素電池
ライトやオーディオ機器稼働のための12V補助機:鉛蓄電池
これらが使い分けられている理由は「エネルギー密度」と「価格」にあります。エネルギー密度とは「一定の重さの電池の中に、どれくらいの電力を蓄えることができるか」を示す性能のこと。3つの中でリチウムイオン電池がもっともエネルギー密度が高く、続いてニッケル使用電池、鉛蓄電池と続きます。
エネルギー密度の高い電池ほど値段も比例して高価になるため、もっともパワーの必要な駆動用バッテリーには高価なリチウムイオン電池が使用されているのです。
電気自動車(EV)のバッテリー寿命は約8年 or 16万km
そもそもバッテリーが完全に使えなくなる「寿命」というものはあるのでしょうか?
一般的には「8年または16万km」といわれていますが、リチウムイオン電池は使用方法や時間経過、充電回数などによって劣化度合いが異なります。よって、「電球のようにある一定期間使うと完全に使えなくなる寿命は存在せず、時間の経過と充電回数によって徐々に劣化していき、バッテリーとしての性能が低下する」が正解かもしれません。
バッテリー寿命は通常の自動車と同じくらい?
バッテリーの寿命の明確な定義はありませんが、新品時の満充電容量を100%としたときの70%程度を目安に多くの自動車メーカーの保証制度が定められています。新品時の満充電容量の70%を寿命と仮定した場合、バッテリーの寿命は車本体の寿命と比べてどの程度異なるのでしょうか。
まず、車本体の寿命年数は一般財団法人自動車検査登録情報協会が公表している「令和3年 車種別の平均使用年数推移」によると、約13年と発表されています。加えて、走行距離においてはトヨタの公式サイトによるとタイミングベルトが切れやすくなる走行距離10万kmを目安としています。
次に、電気自動車(EV)メーカーで最も有名なテスラ社の「モデル3 Rear-Wheel Drive」のバッテリー保証を例に見ていきましょう。モデル3 Rear-Wheel Driveの保証内容は「8年または16万kmのいずれか先に達するまで、 70%のバッテリー容量を保証」となっています。
車本体の寿命が13年10万km、バッテリーの寿命が8年16万kmですから、車本体の寿命とバッテリーの寿命の相関関係はあまりないと推察されます。
バッテリー寿命の保証をしている代表的な自動車メーカー
バッテリー寿命の例としてテスラ社を代表として挙げましたが、他にもバッテリー寿命の保証をしているメーカーはあります。
表で示したように、電気自動車(EV)の多くが「8年または16万km(どちらか早い方が適用される)」まで「70%以上」をバッテリーの保証容量・内容としています。ただし、車種によって保証条件・内容が異なることがあるため、検討している車種については確認するようにしましょう。
電気自動車(EV)のバッテリーが劣化する原因は、過度な充放電・高温下での使用・未充電での放置
① 充電・放電を過度に繰り返す
一般的に知られているバッテリー劣化の原因。バッテリーを使用していくと負極材料として使用されている炭素の分子構造が徐々に変化します。すると、炭素内に収められるリチウムイオンの量が減ります。この変化は充電されている状態で加速されるため、充電・放電を繰り返すと劣化が早まってしまうのです。
② 高温の環境下で使用
バッテリーの急速な劣化を引き起こす原因になりえます。通常バッテリーとなるリチウムイオン電池は、4℃〜46℃の温度範囲であれば、ほとんど劣化が起きないよう設計されています。しかし、バッテリーの温度が上昇するとバッテリー内の化学反応が活発になってしまい、急速に寿命が短くなってしまうのです。
温度とバッテリー劣化の関係を調べた実験では70℃の温度で1000時間保存したものは、初期状態と比べて6割程度の放電容量にまで低下したとされています。(参照:国立情報学研究所│電動車用リチウムイオン電池の劣化と熱的、電気的負荷の影響度について)
③ 充電がまったくない状態で長時間放置
リチウムイオン電池には「自己放電」と呼ばれる現象が起きることも。これは使用していなくても勝手に放電する現象です。自己放電によって充電がなくなると、電池の負極側にあったリチウムイオンが完全になくなります。
リチウムイオンがなくなったあとも電池は放電を続けようとします(これを「過放電」と呼びます)。すると、電池はなくなったリチウムイオンを生成するために、電池の負極に用いられている銅箔を溶かしてしまうのです。銅箔が溶けることで劣化が進み、最終的には充電できない状態にまでなってしまうこともあります。
電気自動車(EV)のバッテリー劣化を防ぐ3つの手段
① スピードを出し過ぎない
高速道路で走行する際についつい速度を出してしまう方は、電気自動車(EV)に乗る際はとくに注意してください。電気自動車(EV)は急激に電気の出し入れを行うと発熱してしまいます。
先ほども述べたようにバッテリーは高温に弱いため、スピードを出した状態で長時間運転するとバッテリーが劣化する原因にも。高速道路では法定速度を守ってスピードは控えめにして、バッテリー温度が上がりすぎないように注意しましょう。
② 急速充電を使い過ぎない
次に不要な急速充電を使わないことが挙げられます。急速充電は大きな電流をバッテリーに流して充電します。流れる電流に比例してバッテリーの温度も上昇するため、バッテリーに悪影響を及ぼしやすくなります。
高速道路でスピードを出して長時間走った後に何度も急速充電を行うと、想定以上にバッテリー温度が上がってしまい、劣化が進む可能性が高いです。急速充電は短時間で充電できるというメリットもありますが、劣化を早める原因にもなるため、無駄に急速充電を多用するのは避けましょう。
③ バッテリーが高温にならないようにする
バッテリー温度が高くなる環境に置かないように気を付けるのも大切です。各メーカーとも「Honda e」のようにバッテリー温度を一定に保つような工夫をしているため、基本的な使い方であれば問題が起きることはまずありません。しかし、真夏の暑い日に長時間直射日光を浴びる所に置くと、場合によってはバッテリーに悪影響を及ぼす可能性があるため、注意しておくとよいでしょう。
レアメタル、リサイクル・リユース… EVバッテリーの3つの課題
電気自動車(EV)の普及が進んでいる背景には「地球温暖化」と「ピークオイル」という2つの社会問題があります。電気自動車(EV)はガソリン車に比べて、一次エネルギーの採掘から車両走行までのCO2の排出量が少ないため、世界中で注目されているのです。
そんな世界中で注目されている電気自動車(EV)ですが、普及させる上で3つの大きな課題があります。
① リチウムやコバルトなどのレアメタルが枯渇
まずは、天然資源の供給不足。EVバッテリーにはリチウムやコバルトなど数種類のレアメタルが使用されています。そのなかでもとくにコバルトが不足する可能性があるとされています。
コバルトの埋蔵量は710万トンほどとされており、年間の採掘量が10万トンほどのため、50年〜60年で枯渇すると言われているのです。また、コバルトはEVバッテリーだけでなく、医薬品や超合金、鉄鋼生産などにも使用されています。
さらにコバルトの生産地には偏りがあり、コンゴ民主共和国がその大半を占めています。コンゴ民主共和国の採掘技術には未熟な面があり供給が不安定です。そのため、コバルトやリチウムに代わる代替材料の発見が課題とされています。また、限りある資源を有効活用するためにリサイクル・リユースの技術革新も求められています。(参照:コバルト生産技術動向)
② リサイクル・リユース問題。毎年600万個以上のバッテリーがEVから取り外される!?
使用済みバッテリーの活用法には、以下の2種類があります。
リサイクル(再生利用):バッテリーを分解してリチウムやコバルトなどの原材料を回収し、それをもとに新しくバッテリーを作る
リユース(再利用):故障した部品を交換・修理して再利用するというもの
リサイクルはコスト面の課題が多く、リユースが現実的とされています。その理由として、現状ではリチウムやコバルトなどの金属を回収するより、新品の車載バッテリーを作るほうが低コストだからです。
「電気自動車向けバッテリーの再利用 2030-2030年」によると世界では2030年までに毎年600万個以上の駆動用バッテリーが電気自動車(EV)から取り外されると予測されています。
③ 充電時間の長さ。急速充電でも30分〜1時間かかる
最後にユーザー目線でのデメリットとして、充電時間が長くかかることが挙げられます。現在の技術では急速充電を使用しても満充電になるまでに30分〜1時間かかってしまいます。
ガソリン車であれば5分もかからず燃料を満タンにすることができるため、その差は一目瞭然です。さらなる普及を目指すためにも充電時間の短縮も課題といえるでしょう。
災害時に非常用電源としても重宝する、電気自動車のバッテリー
さらに電気自動車のバッテリーは、災害時には非常用電源としても活用されるため、環境や経済面でのメリットが大きく、電力不足が生じる状況でも、安定した電力供給を行うことができます。2019年に発生した台風15号による停電時にも、電気自動車の非常用電源が活躍したともいわれています。一度購入すれば長期間使用することができるため、いざという時の強い味方になるでしょう。(参照元:災害時における電動車の活用促進マニュアル(経済産業省))
① 電気自動車内のコンセントからの給電
車室内に100V電源用コンセントがある場合は、電化製品の電源として使えるようになります。コンセントを給電可能な状態にするための手順は車種によって異なるため、メーカーごとの取扱説明書を参照してみてください。
主な家電製品の消費電力
② 給電端子を使った給電
EVやPHVの場合は急速充電用の給電口から、FCVの場合は給電口から給電端子につなぐことで給電が可能。被災時の避難所や小規模オフィス、店舗などの電力をまかなうことができます。
Rebglo.が展開する強力なBCPバッテリーは、緊急時のサブ電源として建設現場でも装備されている
災害による停電時にも活躍。国産のEVバッテリーをリユースして生まれたRebglo.の発電池システム
電気自動車(EV)は充電と放電を繰り返すと、やがて劣化していき駆動用バッテリーとして使用できなくなります。劣化したバッテリーはリサイクルもしくはリユースする必要があり、適切に処理しないと環境汚染につながってしまいます。
環境エネルギーベンチャー Rebglo.では、蓄電可能容量が減り、駆動用バッテリーとして使用されなくなったものをリユースして、BCPバッテリーや独自の発電池システムといった非常用電源を展開。また、配送・設置費以外の初期費用なく月額費用のみで手軽に設置可能なため、環境に優しいだけでなく導入もしやすくなっています。
SDGsの目標7・13にも貢献する本事業を通して、大きな環境保全のサイクルを回すことを目指しています。電気自動車のバッテリーをリユースした、独自の発電システムを使ってエコに節約したい方は、ぜひ一度お問い合わせください。
執筆:松村彪吾
編集:Number X