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なぜ「BEV(電気自動車)シフト」が必要なのか? ガソリン車→電気自動車の歴史から紐解く「クルマとエネルギー」の未来

2030年までに販売する新車をすべてBEV(電気自動車)とすることを目指す――。
2035年までにガソリン車/ディーゼル車の新車販売を禁止する――。

各国政府や自動車メーカーはこうした宣言や目標を掲げ、急速に「BEVシフト」を進めています。その目的は、地球温暖化を抑止するため、CO2排出量を削減すること。具体的には「2050年のカーボンニュートラル達成」です。

これまで“未来のクルマ”であったBEVが、急に身近なものになろうとしている。きっと、そんな風に感じている人もいるでしょう。しかし、歴史を紐解いてみると、BEVは決して未来のものではなく、驚くべきことにガソリン車よりも前に誕生していたのです。

日本も「2050年カーボンニュートラル」宣言へ
2020年10月、政府は2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする、カーボンニュートラルを目指すことを宣言。世界共通の長期目標として2015年に採択された「パリ協定」に合意し、世界120もの国や地域とともに、気候変動問題の解決を目指す。

カーボンニュートラルとは」(脱炭素ポータル)、「2050年カーボンニュートラルの実現に向けて」(環境省)

そして、自動車の変遷を見ていけば、なぜBEVシフトが叫ばれるようになったのか、またなぜBEVシフトが必要になるのかが、見えてきます。頭では理解できていても実感がわきづらいBEVシフトを理解するため、今ここで振り返ってみましょう。

ガソリン車の歴史は130年、BEVの歴史は180年

複雑なメカニズムな多くの部品を必要とするエンジン車と比べて、BEVは作りやすい。だから、新興メーカーも続々と参入している――。

ニュースメディアや新聞で、そんな風に見聞きしたことがある人もいるでしょう。それは半分、ホントで、半分ウソ。

ウソというのは、ボディや足回りなどの設計、品質管理などのノウハウが新興メーカーにはないため、長年クルマを作っていた自動車メーカーには追いつくのは、難しいからです。でも、部品点数が少なく仕組みが簡単であるBEVが作りやすいというのは本当で、それはガソリン車よりのBEVの歴史の方が古いことからもいえます。

電池が生まれたのは1777年、モーターの発明は1823年、そしてBEVの誕生は1830年頃です。諸説ありますが、1828年にハンガリーで生まれたとも言われています。

ドイツのゴッドリープ・ダイムラーが、2輪車や馬車にガソリンエンジンを搭載して特許を出願したのが、1885年。カール・ベンツが、ガソリンエンジン自動車「パテント・モトールヴァーゲン」を作り上げたののも同じころですから、BEVの誕生はガソリン車より50年以上も前だったのです。

パテント・モトールヴァーゲン(写真:トヨタ自動車)
パテント・モトールヴァーゲン(写真:トヨタ自動車)

もちろん、現代のように誰もがクルマを所有する時代ではありませんでしたが、1870年頃に実用性の高いBEVが生まれ、1880年代に市販が始まると、1900年頃まで世界各地で人や荷物の運搬に使われました。

驚くのは、1900年時点でハイブリッド車が存在していたこと。「ローナーポルシェ」と名付けられた世界初のハイブリッド車は、ポルシェの創業者でありエンジニアでもある、フェルディナンド・ポルシェの手によって発明されました。

ちなみに、ポルシェ博士は4輪にモーターを内蔵した4輪駆動のレーシングカーも開発しており、これが世界初の4WD車だと言われています。なお、ディーゼルエンジンの発明は1892年で、同じく19世紀末のことでした。

20世紀が「ガソリン車の時代」になったワケ

BEVの方が先に生まれていながら、仕組みが複雑なガソリンエンジン車が台頭していったのはなぜでしょうか。理由は現代と同じ、そう「バッテリー」です。

2009年に法人をメインターゲットとした三菱i-MiEVが発売されたあと、2010年に日産リーフが発売され、未来のクルマが一気に身近になりましたが、リーフの価格はおよそ400万円、一回の充電で走れる走行距離(航続距離)は、200km(JC08モード)。価格は同クラスのガソリン車の1.5~2倍、航続距離は半分以下と、価格と実用性でガソリン車に太刀打ちできるものではありませんでした。

1900年代当時のバッテリー技術で走れる距離が短く、実用性でガソリン車が勝ったことは、想像にかたくありません。しかも、昔は急速充電もありませんでしたから、液体でどこにでも持ち運べて充填にも時間のかからないガソリンの方が、エネルギーとして魅力的であったのです。

1908年にアメリカのヘンリー・フォードが、世界初の量産型自動車として「フォードT型」を発売すると、20世紀がガソリン車の時代になっていくことを決定づけます。このフォードT型は、1908年から1927年までの間に1,500万台以上も生産され、自動車を一気に身近な存在にしたのです。

フォードT型(写真:トヨタ自動車)
フォードT型(写真:トヨタ自動車)

日本のマツダは、2020年に創立100周年を迎えましたが、よく知られている自動車メーカーの多くは、1910~1930年ごろに誕生しています。

日本初のガソリン自動車「タクリー号」
国産初の「ガソリン自動車」は1907年に作られている。吉田真太郎と内山駒之助の手によるもので、ガタクリ、ガタクリ走ることから“タクリー号”と呼ばれ、10台ほどが作られた。

日本の自動車技術330選」(自動車技術会)

2015年の「あの事件」がBEVシフトを加速した

エネルギーとしての使いやすさから、瞬く間にBEVからシェアを奪ったガソリン車。それでも、20世紀後半になると、再びBEVが注目されるようになります。理由は大きく3つ。

① 石油枯渇問題
地球に埋蔵されている石油資源は有限であり、いつかは枯渇します。「石油はあと30年でなくなる」などと聞いた記憶がある人もいるでしょう。だから、石油資源に依存しないエネルギーで自動車を走らせよう、というわけです。

② 温室効果ガス削減
今、BEVシフトを急速に進めている理由は、こちらの方。冒頭でも触れた2015年の「パリ協定」で、初めて「2050年カーボンニュートラル」という目標が掲げられました。今、世界はここに向かって、「脱・石油」「脱・炭素」を進めています。具体的な目標は、平均気温上昇を産業革命以前に比べて「2℃より十分低く保つこと」。さらに「1.5℃に抑えること」を努力目標としています。そのために必要なのが、2050年までのカーボンニュートラル達成なのです。

③ 政治とビジネス
石油は資源国でしか採れませんから、国家間の仲が悪くなったり大幅な為替変動が起こったりすれば、輸入できなくなってしまうおそれがあります。「脱・石油」を目指すのには、そんな理由もあるのです。

また、中国は2019年から「NEV規制」を国内で実施しています。NEVとは「NewEnergyVehicle=新エネルギー車」のことで、要はBEVのこと。自動車メーカーに対して「生産台数の◯◯%をNEVにしなさい」というもので、割合を段階的に高め、NEVを増やす政策です。

2023年より日本でも展開する中国「BYD」(写真:BYDジャパン)
2023年より日本でも展開する中国「BYD」(写真:BYDジャパン)

中国は、自動車産業国としては後発にあたります。だから、歴史あるライバルの多いガソリン車ではなく、全世界がほぼゼロスタートとなるBEVで勝負しようというわけ。

もう1つBEVシフトで重要なファクターがあります。2015年の「ディーゼルゲート事件」です。ドイツのフォルクスワーゲンが、ディーゼルエンジン車の排気ガス試験で不正を働いていたことが明るみになった事件で、その後、他メーカーも同様の不正を行ってたのではないかという疑惑が持たれました。
これは、ガソリン車よりもCO2排出量が少ないディーゼル車を主流としていた欧州メーカーにとって大きな痛手。汚名返上とばかりに欧州全体がエンジン車(ICE)からBEVへとシフトすることとなりました。

また、自動運転には、エンジン車よりも電子制御でコントロールしやすいBEVの方が都合がよく、このこともBEVシフトを加速させています。まさに「政治とビジネス」です。

電動化の先駆け「トヨタ・プリウス」
トヨタ・プリウスは世界初の量産ハイブリッド車として1997年に登場。発売当初のカタログ燃費(10・15モード燃費)は28.0km/Lだった。 

歴代プリウスの進化」(トヨタ自動車)

本当に「BEVの時代」はやってくるのか?

2020年あたりから、各国政府が「20◯◯年までにガソリン車販売を禁止する」といった方針を打ち出し、メーカーも「20◯◯年までにガソリン車の生産を終了する」と宣言をはじめました。ガソリン車終了を2030年としているメーカーも、少なくありません。では、10年後、あなたの家の車庫のクルマが、BEVになっていることを想像できるでしょうか。BEVのシェアが増えていくことは、間違いないでしょう。しかし、実際問題として、どれだけ増えるかは未知数です。

考えてみてください。今ですら政府から節電要請が、出されているのです。ガソリン車から置き換わっていくBEVを走らせる電力が、あるでしょうか。しかも、今の日本は火力発電が中心です。結局のところ、化石燃料を燃やしているのです。

現実に、中国などでは原子力発電所の新造が続いています。また、コロナ禍やロシアのウクライナ侵攻によりエネルギーや資源、部品の生産・供給といった問題が噴出し、欧州勢の語気も弱まっています。バッテリー生産に必要なレアメタルの安定供給も、課題です。

つまり、今は世界が一斉に向いたBEVシフトという方向を見つめ直すとき。各国政府もメーカーも、最適解を探している状態といえるでしょう。では、「最適解」とは何でしょうか。多くの識者も示しているとおり、正解は1つではありません。

例えば、トヨタ自動車は水素をエネルギーに使うクルマの開発をさかんにアピールしています。

トヨタ自動車は水素エンジン車でモータースポーツに参戦する(写真:トヨタ自動車)
トヨタ自動車は水素エンジン車でモータースポーツに参戦する(写真:トヨタ自動車)

水素(H)は燃やして酸素(O)と結合しても、排出するのは水(H20)ですから、走行中のCO2はゼロです。また、風力など自然エネルギーで発電した電力でクルマを走らせる方法もあります。

求められるのは、エネルギーの「適材適所」です。水素が入手しやすい地域では水素自動車が、自然エネルギーで発電できるエリアではBEVが、というように、その地域特性にあったエネルギーが選ばれていく時代になっていくと考えられます。

水素で発電して走るFCEV「燃料電池車」
水素と酸素の化学反応によって発電するのが燃料電池(FC)の仕組み。水素を補給し、FVで発電して走る自動車をFCEV(燃料電池自動車)という。

燃料電池自動車のしくみ」(JHFC水素・燃料電池実証プロジェクト)

使いやすいから選ばれる―。
いつの時代も、それがエネルギーです。繰り返しになりますが、今は世界が模索しているところ。その答えが2つになるのか3つになるのかはわかりませんが、これからの10年で大きく方向が変わることは間違いないでしょう。 

EVバッテリーをBCPバッテリーにリユースし、SDGsにも貢献

EVバッテリーをBCPバッテリーにリユースし、SDGsにも貢献

環境エネルギーベンチャー Rebglo.では、蓄電可能容量が70%を切り、放置されていたEVバッテリーという資源をリユースして、BCPバッテリーや発電池システムといった非常用電源を展開。SDGsの目標7・13にも貢献する本事業を通して、大きな環境保全のサイクルを回すことを目指しています。 

執筆:木谷宗義(type-e)
編集:ヤスダツバサ(Number X


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