見出し画像

実は日本がリードする「EVバッテリー」のリユース動向と、リサイクルのこれから

モノを作れば、いつか必ず“廃棄”のときを迎えます。今、廃棄において課題となっているのが、EV(電気自動車)のバッテリー(車載用リチウムイオン電池)です。

「いまだ適切な処理方法がない」などと報道されることもありますが、世界でEVが急速に増えている今、EVバッテリーのリサイクルやリユースは着実に進んでいます。しかも、その分野でもっとも進んでいるのが日本だと聞けば、驚くのではないでしょうか?


なぜ、日本が世界をリードしているのか。

日本はEVで出遅れている――。そんなニュースも多い中、なぜ日本が廃バッテリーへの取り組みで世界をリードしているのか。

それは、日本が世界に先駆けて量産EVの生産と販売をスタートしているから。2009年に三菱「i-MiEV」、2010年に日産「リーフ」が、誕生しています。

日産リーフ2010年(写真:日産自動車)

リサイクルの問題は、製品が先にあってこそ始まるもの。2020年ごろにようやく量産EVに本腰を入れてきたEUやアメリカ、中国とは、スタート地点が違っているのです。

日産×住友の合弁会社「4R Energy」

特に、廃バッテリーへの取り組みが早かったのは、日産です。日産がリーフを発売したのは2010年12月ですが、それに先立つ2010年9月の時点で、住友商事とフォーアールエナジー株式会社(以下、フォーアールエナジー)を設立させています。

4Rの名は、「リユース(再利用)」「リセール(再販売)」「リファブリケイト(再製品化)」「リサイクル(再資源化)」という4つRを意味するもの。EVを発売する前に、すでにEVバッテリーの“次の使い方”と事業化を目指していたのです。

小型バッテリーのリサイクルは実施済み

リチウムイオン電池のリサイクル自体は、すでに日本国内で実施されています。ただし、それは家電などに使われる小さな電池が対象です。

電池メーカーや家電メーカーなどによって設立された一般社団法人JBRCが、リチウムイオン電池を回収。電池本体を解体・分離して、熱処理などを行い、コバルトやニッケルなどの再資源化を行っています。

一方、EVに使われるリチウムイオン電池は、家電用の小さな電池と異なり大型で、しかも複雑な構造となっています。電池単体だけでなく、ハーネスや制御用の基板、冷却機能のための部品などが、一体化されているためです。

そのためEVバッテリーは、家電用の小型リチウムイオン電池と同じルートでの再資源化は考えられていません。そうした現状に対処するために、日産はリーフを市場投入するのにあわせて、フォーアールエナジーを立ち上げたのです。

EVバッテリーのリサイクルが伸びないワケ

2010年にスタートしたフォーアールエナジーが華々しく業績を上げたかといえば、話はそう簡単ではありません。

自動車は、長く使われるものです。最新の調査では、日本の乗用車の平均使用年数は13.84年(令和4年3月末、一般財団法人自動車検査登録情報協会調べ)となっています。

また、日本におけるEV保有台数の伸びは、ごく穏やかものです。2011年時点での国内乗用EV保有台数は、わずか4,637台。2012年で1万3,267台、2013年で2万4,984台(一般財団法人自動車検査登録情報協会調べ)しかありませんでした。

三菱 i-MiEV 2009年(写真:三菱自動車)

日本では、新車がスクラップになるまで、平均で14年近くかかります。一方、EVの普及は13年ほど前に始まったばかり。その13年前の国内のEVの数は、わずか4637台です。つまり、廃棄されるEVが増えるのは、これからが本番。これまでは、EVの数も少なかったため、廃棄されるEVバッテリーも、ほんのわずかしかありませんでした。

そんな中でも、数少ない廃棄EVバッテリーをコツコツと集め、再利用するために試行錯誤してきたのがフォーアールエナジーです。2014年には、リーフの使用済みバッテリーを活用した実証実験を開始します。

リーフの使用済みバッテリーを再製品化

2018年3月には福島県浪江町にて「使用済みEV用バッテリーの再製品化専用工場」を開業。同年、リーフ向けに再生バッテリーを使った、バッテリーの有償交換プログラムを発表しています。古くなったリーフのバッテリーを分解・整備し、劣化の少ないセルを選び出して、割安に再製品化を行うというものです。

さらに、2018年はリーフの中古バッテリーを再利用した街灯を、福島県浪江町に設置。翌2019年には、再製品化したEVバッテリーの「UL1974認証」を獲得しています。

フォーアールエナジーの再製品化専用工場(筆者撮影)

この認証は、中古バッテリー部品の使用の適否を判別・分別するプロセスを規定するもの。この規定に従った製品と認められることは、同再製品化された中古のEVバッテリーが適切な手法で作られていることを意味します。

2020年には、リーフの中古バッテリーを使ったキャリア型移動式蓄電池「どこでもdenchi」を発売。これは重さ約25~26kgの人の手で運ぶことのできるバッテリーで、オフィスや屋外工事の電源として使うことができるものです。

さらに2022年には、JR東日本と組んで、踏切の保安装置に中古バッテリーを導入。停電時の踏切のバックアップ電源として、2022年度中に約160の踏切に導入すると発表し、順次設置が行われています。

なお、フォーアールエナジーが再製品化専用工場の開業させたのと同じ2018年の10月には、一般社団法人 自動車再資源化協力機構(自再協)が、EV用バッテリーの無償回収システムを構築、運用を開始しています。多くの自動車メーカーや2輪車メーカー、輸入車のインポーターはこの自再協にバッテリーの回収を依頼しているようです。

今は「3R」の段階。リサイクルはこれから

現在のところ、古くなったリーフのEVバッテリーは、「リユース(再利用)」「リセール(再販売)」「リファブリケイト(再製品化)」の“3R”で実際されています。

フォーアールエナジーでのバッテリー再製品化の過程(筆者撮影)

今後、EV用として寿命を迎えるバッテリーや廃車時期を迎えるEVが増え、中古EVバッテリーの流通量が増加すれば、“4つ目のR”である「リサイクル(再資源化)」がスタートするのも、間違いありません。

つまり、古くなったEVバッテリーの行方は、EV向けの「リユース(再利用)」や「リセール(再販売)」に始まり、続いてEV以外に向け「リファブリケイト(再製品化)」され、最後に「リサイクル(再資源化)」と進むというわけ。そして、その先陣を切っているのが、日本のフォーアールエナジーなのです。

今後、欧州や中国でも、同じようなプロセスでEVバッテリーの“4R”が進むのではないでしょうか。

執筆:鈴木ケンイチ
編集:木谷宗義(type-e)、ヤスダツバサ(Number X

この記事が参加している募集

みんなの防災ガイド

防災いまできること

みんなにも読んでほしいですか?

オススメした記事はフォロワーのタイムラインに表示されます!